IT業界で仕事をしていると、様々なことが技術的な問題として片づけられやすいのですが、実際には人の問題であり、突き詰めると組織の問題だったということが往々にしてあるものです。担当者によってスキルはばらつきがあると思いますが、個々の担当者はレベルが高いのに失敗が起こるとしたらそれは組織の問題と捉えて良いだろうと考えています。
多くの場合に失敗は現場で顕在化するため、組織は現場の問題として片付けたがる傾向がありますが、もし問題の根っこがプロセスや組織にあるとしたら、現場の問題、個人の問題として扱っている限りは失敗は無くならないでしょう。それ以上現場の担当者を責めても励ましても効果は上がらないと考えるべきです。
「失敗学」といえば元々は製造業界や建築業界で発生した事故の分析というイメージがありますが、今ではそこに留まらず幅広く組織で発生するトラブルを分析されているようです。本書は、失敗学を紹介する本ではなく、そんな失敗学の研究の成果を個人レベルで実践できるようにアレンジされたものです。見開きで右ページの本文と左ページの図解がセットで1つのトピックとなっており、読み進めやすく構成されています。
大まかな章立ては次の通りです。
- 失敗との向き合い方(個人レベルでの)
- 失敗の発生原理と知識化
- 失敗からの学び方(失敗を成功に変えるには?)
- 失敗学を組織に応用する方法
こうして見ると、最初は確かに個人レベルの話なのですが、最後は組織レベルの話になっています。担当者一人一人が担当者としてスキルアップすることが、必ずしも組織としてレベルアップすることと等価ではなく、行きつくところは組織レベルでの取組みが必要だと理解しました。本書にもあるように「組織としての失敗対策はトップダウンしか為し得ない」ということです。
失敗についての情報はどうしてもネガティブなものとして捉えられ、蓄積や活用が進みにくいものです。特にトラブルの直接的な引き金になった担当者であれば尚更だと思います。そういうこともあり、組織のトップが率先して現場の失敗情報を吸い上げ、それをまた各現場に下ろして組織全体に行き渡らせるといった取組みが必要なのだと考えています。
書名:図解 使える失敗学
著者:畑村 洋太郎
発行:中経出版/2014年7月31日
ISBN:978-4-04-600238-9