AIに使われるな、AIを使いこなせ

本日19日はIC協会の月例セミナーが開催され、3カ月ぶりに参加してきました。本日のテーマは「未来から考えるICにとっての5年後、10年後の市場の変化(AI時代のトレンドの波に乗るICの働き方とは)」ということで、IC協会の会員でもあるニコラデザイン・アンド・テクノロジー代表取締役の水野操さんが登壇されました。水野さんは「あと20年でなくなる50の仕事」という衝撃的なタイトルの書籍も執筆されており、本日はその内容も交えてお話しくださいました。

20年後というと2036年。あまりに未来過ぎてイメージしにくいですよね。今年生まれた赤ちゃんが成人する頃です。今私たちが従事している仕事はどのようになっているのでしょうか。かつて工業化がブルーカラーの職を奪ったようにAI(人工知能)がホワイトカラーの職を奪うというような話を耳にしますが、正直なところどこまでAIというかコンピュータが侵食してきているのかは誰も知りません。少なくとも想像以上にAIが進化してきているのだろうということは想像できます。

昨今でも自動車の自動運転のニュースはよく耳にします。もし自動運転が法的にも技術的にも確立されたらまさしく運転手という職業は無くなるでしょう。それだけでなく考える仕事や判断する仕事さえもコンピュータに置き換わっている可能性すらあります。つまり、たとえ今ホワイトカラーの仕事に従事していたとしても、決して安泰ではないという時代が目の前にやってきているということです。

私のような働き方をしていると特にそうなのですが、一つの仕事に固執しているとやがては仕事を奪われる(失う)ということになりかねません。しかし、職業とはそもそも何なのでしょうか。一つの側面としては日々の糧を得る手段ということになるのかもしれませんが、結局はニーズがある(=買ってくれる人がいる)から職業として成り立つのであって、ICとしては必然的にどのようなニーズがあるかを追いかけていくということになるのだと思います。

最後に水野さんはハッとさせられる問いを投げかけられました。それは「AIに仕事を奪われることはつらい事か?それは何故か?」というものでした。今の私の答えは「NO」で、それは社員を雇う代わりにAIを使えばステップアップできると考えるからです。

私は「どんな仕事をしているのか」という問いが正直苦手で、一言で答えるのは大変難しいと感じています。それでもあいさつ程度であれば「IT関連」と答えれば充分なのでそう答えるようにしていますが、必ずしもITは必須ではないよな~と思っていたりします。ITに限らず求められることに対して必死で答えていく(=課題の解決をお手伝いする)ことをここまでやってきたということなのかもしれません。個人的にはちょうど自分がやってきた仕事の棚卸をしたいなと思っていたところでしたので、今回は大変タイムリーなお話を伺えたと思っています。


「見える化」というプロマネの仕事

「プロジェクトマネージャ(PM)の目的は何か」という問いには人によって表現は微妙に異なると思いますが、およそ「成功裏にプロジェクトを完了させること」ということになるでしょう。では「その目的の為にPMが行う作業(=手段)は何か」という問いにはどのように答えるでしょうか。もちろん、これも人によって、特に業種・業態やプロジェクトの特性によって表現は異なると思いますが、私が一言で答えを問われた場合には「見える化(=可視化)」と答えます。

もちろん、PMの仕事というのは究極的には「成功裏にプロジェクトを完了させるために、あらゆる手を尽くす」ということになるのですが、「あらゆる手」に共通するポイントというのが「見える化」なのではないかと考えています。とはいえ「見える化」して終わりという意味ではなく、「見える化」するところから始まるという意味です。念のため。

プロジェクト管理手法というのは数多あるのですが、どれもが管理すべき対象を見えるようにして状況を把握し、様々な手を打つための判断の手助けをしてくれるものだと私は理解しています。例えば、計画の見える化、タスクの見える化、スコープの見える化、スケジュールの見える化、コストの見える化、品質の見える化、リソースの見える化、リスクの見える化、コミュニケーションの見える化…などです。

なので、プロジェクトをマネジメントする立場に就いた場合には、いかなる形式であろうと、これらを「見える化」する、つまり具体的なドキュメントに落とし込むかツールに入力・表示するというところから始める必要があるということです。こういった作業は面倒くさいものですが、「見える化」する作業を省略していったい何をマネジメントするというのでしょうか。

よく、頭の中にはあるから(アウトプットしなくても)大丈夫だということを主張する人も見かけますが、実際にアウトプットしてみると意外と出来ないということが分かると思います。脳内に記憶できる情報量も限られているそうですので、全てを同時に、かつ瞬時に把握し合理的な判断を下すというのはどう考えても無理があります。まして、プロジェクトでは日々想定外の問題が発生し、常に合理的な判断を求められるのです。そのためにいちいち思い出しながら進めるというのは効率が悪すぎます。それにもしそのうちのいくつかを思い出さなかったとしたら、それはどういう結果を招くでしょうか。

ここまでプロジェクトマネジメントのイメージで書いてきたつもりですが、改めて考えてみると一般的な組織のマネジメントにも当てはまるのではないかと思っています。もちろん経営者は判断するのが仕事ですが、瞬時に的確な判断を行うために「見える化」が必要なんだと理解しています。


「さよなら、インタフェース」ゴールデン・クリシュナ 著

数年前、IT業界(…の一部)ではNoSQL(ノー・エスキューエル)というのが流行りました。いや、正直なところ、流行ったと言えるほど一世を風靡したかというとそれほどではない気もしますが、今回ご紹介する書籍はNoUI(ノー・ユーアイ)を提唱しているものです。「Noなんとか」っていうのが流行ってるんですかね?

2010年代に入って日本で携帯電話(ガラケー)一色だったモバイル業界の勢力図がスマートフォンによって一気に塗り替えられてからというもの、様々な面白いアプリや便利なアプリが登場し、それに触発されて(私も含め)猫も杓子もスマートフォンアプリの開発に乗り出すといった状況になりました。スマートフォンアプリの入門書が氾濫し、入門講座もあちらこちらで開催され、本業とは別にアプリ開発でお小遣いを稼いでいる人もいるのではないでしょうか。

最近ではIoT(モノのインターネット)というバズワードに支えられるように、スマートフォンをリモコン代わりにして家電を操作するアプリとか、家や自動車の鍵をスマートフォンで開けるアプリなんていうものも登場しました。確かにそれは今までになかったアイデアではあるものの、それって本当に必要なんだっけ?アプリありき、画面ありきになっていない?と本書では警鐘を鳴らしています。

もちろん、そういったアプリが本当に浸透するためには、単に物理的に操作するだけでは得られないメリットが提供されなければなりません。例えばシェアリングサービスでは部屋や自動車の鍵をソフトウェアで管理することで、物理的なキーの受け渡しや、返却後の無効化など、これまで制約だった点が克服される事例も出てきています。単に、物理を電子に置き換えるだけでは何のメリットもありません。

もう10年近く前になりますが、支援に入ったある企業で業務の運用管理ツールをオンサイトで開発していたことがあります。但し、私が最初から開発したのではなく、過去に在籍していた技術者が残していったツールが乱立していたというのが実情で、私はそれらを整理・集約しつつ、必要な新しいツールを作成していました。当時の依頼者のオーダーのキーワードは「ボタン、ポン!」、つまりワンクリックですべてが完了するというものでした。せっかくツールを作っても複雑な手順が必要だったり、誤操作しやすいUIでは効果も半減。手順書すら必要ないシンプルなUIが技術を知らないオペレータにとっては一番使い易いということを見事に言い表したフレーズだと思います。

本書の本質(と私が考えるところ)は、突き詰めて考えると、「みんながやっているから何となく」という理由ではなくて、きちんと考え抜かれたUIであり、UXを提供するように心がけて欲しいということなのでしょう。システムであれば1から10まで指示しなくても、ワンストップで完結するのがベスト。アプリだってUIだって無くて済ませることが出来ればそれに越したことはないわけです。その為にはどうするか?…というところに知恵を出す。それが新しいイノベーションを生むのではないでしょうか。


書名:さよなら、インタフェース
副題:脱「画面」の思考法
著者:ゴールデン・クリシュナ
監訳:武舎広幸
翻訳:武舎るみ
発行:BNN新社/2015年9月16日
ISBN:978-4-86100-993-8