IT業界の多重下請構造の実態を公正取引委員会が調査・報告

プロジェクトオーガナイザの吉田聖書よしだみふみです。

6月29日に公正取引委員会が、「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」というレポートを公表しました。

ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書について(2022/6/29 公正取引委員会)

これはなかなか興味深いレポートでした。

このレポートは開発を請け負っている事業者に対するアンケート調査を基に作られています。サンプル数はそれなりに多くて、法人が4,739社(調査期間:2021/10/25~11/26)、フリーランスのITエンジニアが2,540名、会社に所属しているITエンジニアが1,776名(いずれも調査期間は2022/01/17~02/13)となっています。この手の調査にしては結構多いという印象を受けました。

このレポートは5部構成になっていまして全部で100ページくらいあります。
第1部が調査の趣旨と調査方法といった概要について書かれています。
第2部はソフトウェア業界の概況が書かれていまして、このレポートを読み解いていく上で必要となる前提知識と考えて良いと思います。
第3部は多重下請構造における事業者間取引の実態と問題点をまとめています。
第4部は下請法の義務・禁止行為に関する生々しい調査結果について書かれています。
そして最後の第5部は今後の対応策について書かれています。
おそらく多くの方が興味を持たれるのは第3部と第4部だろうと思います。

まず多重下請構造の問題点が書かれている第3部から見ていきましょう。
最下層の下請業者を最終下請と呼んでいて、最下層ではない下請け業者を中間下請けと呼んでいるんですけれども、受注先の数が5社未満という回答が最終下請で7割強、受注先が1社しかないよという回答が2割弱だったんですね。
つまり、特定の会社からしかお仕事をもらっていなくて、問題のある行為を受けた場合でも泣き寝入りするしかない状況ということです。もし噛みついたらお仕事がもらえなくなってしまうからということでしょう。これはよく分かります。

第3部の後半は、多重下請構造ゆえの問題点について整理しています。
問題点は大きく分けて2つ、下請代金に関する問題と、契約や取引上の問題があります。

下請代金に関する問題としては、階層が深くなることによって金額が先細っていく「買い叩き」の問題や、作業開始後に一方的に代金を減額させられるという問題、それから理由をつけて支払いを遅らせる支払遅延の問題を挙げています。

契約や取引上の問題としては、無償で追加作業とかやり直しをさせられる問題、納品しても検収してくれない受領拒否の問題、それからコミュニケーションが分断される問題などを挙げています。

加えて、「中抜き」事業者の存在についても言及しています。中抜き事業者というのは、何も価値を生み出さず、マージンだけ抜いていく事業者のことを指しています。価値を生み出している中間事業者は問題ないんですよ。でも打合せにも顔を出さないし、営業の機能しか果たしていない事業者は沢山います。

第4部では、具体的な禁止事項を法律に照らして解説していまして、公正取引委員会は、下請法上の問題だけではなく、独占禁止法上の問題もはらんでいると警告を鳴らしています。いわゆる「優越的地位の濫用」っていうやつですね。まあ私も過去に5次請けとか6次請けという立場で仕事をしたことがありますし、それについて様々な疑問を抱いてきましたので分かります。


※ この記事は、先日公開した以下の音声コンテンツを基に編集したものです。


ちょうど、先々週、BIPROGY(旧日本ユニシス)が兵庫県尼崎市の全市民の個人情報が入ったUSBメモリを紛失したという事件がありました。この事件は様々な論点があって、IT業界内外の人たちが色んな意見を言い合っていますが、実際にUSBメモリを紛失した人の所属会社が尼崎市もBIPROGYも知らなかったということが判明し、これについても様々な議論を呼んでいます。

IT業界、特にソフトウェア業界は昔から商習慣として多重下請構造が一般的に存在していました。そして階層の下の方、特に最終下請として働くソフトハウスやフリーランスのITエンジニアが一番割を食っているということがよくあります。よくあることだし、個人のブログとか、時々ネット記事でも話題になることはありましたが、政府が本格的に動くということは今まで記憶にありません。

もちろん多重下請のすべてが悪いということではないです。でも、これはおかしいよねという状況も確かに存在しており、このレポートはそれを明らかにしています。解決というとなかなか現実的に難しい問題も含んでいますが、これをきっかけにして業界全体が良い方向に向かっていくことを願っています。



関連記事

プロマネの右腕

クロスイデアでは、新サービス・新ビジネスの 立上げや計画を中心に
プロジェクトマネジメントの支援を行っています。

新サービスの企画を任されたけど どう進めていいか悩んでいる担当者、
部下に新しい企画を任せたけど このままで大丈夫か不安な管理職の方、
以下のサイトをご参照ください。
https://www.crossidea.co.jp/services/right-hand-pmo.html

YouTubeにて動画配信中!

プロジェクトマネジメントのノウハウを
YouTubeで配信しています。
ブログと併せてご活用ください。

Comments are closed.