ダイハツの不正事例に学ぶ:タイトなスケジュールがもたらす問題

プロジェクトオーガナイザの吉田聖書よしだみふみです。

昨年12月20日に、自動車メーカーのダイハツ工業が公式サイトにお知らせを掲載しまして、不正行為の第三者委員会による調査結果を公表しました。

第三者委員会による調査結果および今後の対応について(2023/12/20 ダイハツ工業株式会社)

また同日、本件の内容について記者会見も開かれまして、割と大きなニュースにもなったのでご覧になった方もおられるのではないでしょうか。30年も前から不正が行われていたということで、しかもそれが見過ごされてきたということでスケールの大きさに驚きましたね。私自身はダイハツ車を運転したことは無いんですが、親戚が持っていた軽トラックが確かダイハツ製だったと記憶しています。

お知らせには第三者委員会によるレポートが添付されていまして、概要版と正式版があるのですが、本体は150ページ以上もあるので様子を知りたいだけの人は14ページにまとめられた概要版で充分かと思います。レポートの大半は不正の具体的な内容に費やされています。不正の内容については、多くが報道されていまし、それの解説をするのが趣旨ではありませんので、ここでは割愛したいと思います。

ここで採り上げたいのはやはり不正が発生した原因ですよね。(私はちょっとだけ自動車の開発に携わったこともあるんですが、そういう製造業の現場の話をしたいのではありません。)今回の一連の不正は製造業の現場で起こったことではあるんですが、同様の事象がIT開発の現場でもよくある話なのではないかということです。もっとも、IT業界だけでもないという声も聞こえてきそうですが…。

レポートによれば、アンケート調査の結果、不正行為が発生した原因のうち上位1位・2位が、「開発スケジュールが過度にタイトになる傾向」と「公表された発売時期や開発日程順守(延長不可)のプレッシャー」でした。これってあるあるですよね。

短期開発というのは昨今のシステム開発でも同様の傾向がみられます。受託開発の現場ですと、普通に考えて無理だろうというスケジュールが委託元から提示されることがあります。しかもその期日(たいていの場合は納品かカットオーバーの日付)がエンドユーザーと握った日付だったり、プレスリリースなどで公表した日付だったりすると、その締切日ありきでスケジュールが組まれることになります。でもその締切日に根拠はないんですよね。

だから、開発ベンダーは妥当なスケジュールではなく、提示した締め切り日に合わせてスケジュールを計画することが求められますし、大抵の場合、会社間のパワーバランスでその依頼を断ることができません。当然開発の現場ではそんなスケジュールは無理だと分かっていて仕事を引き受けるのです。そして開発が始まれば期日を守るために勢力を結集して情報システムの完成に向けた活動が行われます。

ですが、元々無理なスケジュールなので、プロジェクトが進行していくと期日が守れなさそうだということが徐々に明らかになってきます。委託元は委託先を厳しく追及しますが、それで情報システムが完成するわけではありません。そして開発メンバーの努力も空しく期日をオーバーしてしまいます。


※ この記事は、先日公開した以下の音声コンテンツを基に編集したものです。


まあ、これがごく一般的なシステム開発のストーリーです。受託開発の場合、委託元でバッファを持ち、委託先がバッファを持つことが許されないということが多い気がします。何故か「すべてがうまく行った場合のスケジュール」を求められるのです。

実際にはその夢のようなスケジュール通りに進行することは無いので、後ろの工程にどんどんしわ寄せが来ます。一般的なシステム開発の場合、それはテスト工程ということになるのですが、元々無理なスケジュールで進行しているため、テストすれば不備が沢山炙り出されます。委託元はそのことに対しても問題視しがちです。スケジュールがタイトなのにそんな不具合ばかり出してけしからんといった論調です。

しかし、テストというは不備を炙り出すための活動であり、テストしたというアリバイを作る活動ではありません。テスト結果が不合格だからと言って、それはそれまでの活動の結果であり、テスターに不合格の責任はありません。それをテスターにプレッシャーをかけてしまったら、テスターは結果を誤魔化して不具合を隠しますよね。それは当然だと思います。それがダイハツでも起こったのだと私は理解しています。


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