接触確認アプリ「COCOA」の不具合調査報告書を読んでみた

プロジェクトオーガナイザの吉田聖書よしだみふみです。

今回は先月に引き続き、昨年2020年の6月に厚生労働省がリリースした接触確認アプリCOCOAを取り上げたいと思います。

先月も取り上げたばかりなので、正直どうしようかなと思ったのですが、実は厚生労働省がCOCOA 不具合調査・再発防止策検討チームを組織して一連の問題について調査していまして、4月16日に調査結果を公表しましたので、それを読んで感じたことを書こうと思います。

このアプリは実はソースコードが公開されています。
私も興味本位でソースコードを見てみたところ、Xamarinというマイクロソフト社が提供している開発ツールを使っているようで、iOSとAndroid別々の資源ではなくって、1つの資源で開発を進めているようでした。

ソースコードを見た感想なんですが、非常にコメントが少ないなと思いました。何故でしょう。突貫工事で作ったとは言われていますが、だからこそ適切なコメントを残すべきではないかと思います。

急いで作るということはそれだけ無理しているので、もしかしたら冷静な思考・考えができていなかったかもしれません。そういう状態で作ったコードは、あとから読み返すと何でこういう風に書いたんだっけなって思うことがあるんですね。そんな時、コメントがあればそれを思い出す助けになるわけです。


※ この記事は、先日公開した以下の音声コンテンツを基に編集したものです。


話を元に戻して、肝心の調査結果についてですが、厚生労働省のWebサイトで公開されていまして、私は一通り報告書に目を通しました。これは炎上プロジェクトあるあるの宝庫ですね。この報告書はプロジェクトマネジメントの教材としての価値が充分にあると思います。

興味のある方は読んでみてください。詳細版は40ページ以上ありますが、かなり生々しい証言が記録されています。

接触確認アプリ「COCOA」の不具合の発生経緯の調査と再発防止の検討について(報告書)

これを読んで、言いたいことは沢山あるんですが、ここでは3つのポイントに絞って考察します。

(1) マネジメント計画がない

報告書を読む限り、プロジェクトをマネジメントするための計画が無かったとは明記されていませんが、おそらくなかったんだろうということが想像できます。マネジメント計画が存在していたのに、今回のような問題発生に至ったのだったとしたら尚悪いと思います。

一般的にプロジェクト計画の中にはマネジメントの計画も入れます。それは、こういう時に誰がどうするとかの手順(業務フロー)や役割分担を含んでいます。
COCOAの場合は、マネジメント計画が無く、そのためかプロジェクト全体がワンチームとしてまとまっていない印象を受けました。

マネジメント計画があれば、それを各チームが読んで理解することで、「この役割はどのチームだ」というのを把握することができます。少なくともプロジェクトを構成する各チームのリーダー間はお互いの役割分担について認識を共有している必要があると思います。

再発防止策として、マネジメント計画の整備について触れていないのが気になりましたが、
少なくともマネジメントに関する役割分担を共有できるように、プロジェクト全体をまとめていかなければいけないと感じました。

(2) テストの軽視(受入テストの省略)

報告書によると、開発者側もタスクが溢れていて、作ったプログラムのテストよりもバグの修正を優先していたそうなんですが、それよりも重大な欠陥は受入テストをやっていないということではないかなと思います。

請負で委託しているにも拘らず、委託元が委託先の成果物のテストを実施しないで済ませているということが報告書から読み取れます。仮に、環境的に実施が難しいテストもあったとしても、少なくとも厚生労働省は厚生労働省として受入テストをすべきであって、その部分は委託はあり得ません。何故なら、受入テストとは「委託したものが委託した通りにできているか」のテストだからです。

そういった受入テストをしないでリリースしてしまっているというのは論外ですし、その点が再発防止策として全く言及されていないのは問題だと思いました。

(3) 契約形態のアンマッチ

報告書を読むと、アジャイル型のプロジェクトとして運営されていたようです。ですが、委託は請負契約だったということが書かれています。
請負契約というのは、完成形を定義して、その完成を約束する契約形態ですから、アジャイル型のプロジェクトのように、最初に完成形を定義できないのであればそもそも請負契約を締結することはできないはずです。

モバイルアプリのように変化に追随することが求められる開発案件は、厚生労働省が全てを管理して準委任契約にしなければ上手くいかないと思います。

管理できる人材がいないから請負契約にして丸投げしたんだと思いますが、それは解決策にはなっていないということです。その点も再発防止策としては表面的に触れる程度でした。

    ◆    ◆    ◆

以上、報告書を読んで考察したことを書きましたが、これを読む限り、まともな体制を構築できそうにないですし、従ってまともなアプリに成長することは難しそうだと感じました。



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