防衛省の接種予約システムのベターアイデア?

プロジェクトオーガナイザの吉田聖書よしだみふみです。

先週5月17日に、防衛省がオープンした大規模接種会場向け予約サイトですが、そのシステムに不具合があるということが報道されました。
ここではシステムの機能について考察したいと思います。

まず、どのような不具合が報道されたのかというところですが、そもそもこの予約サイトは、チケット(接種券)が郵送されてきた人が対象で、チケットに記載されているチケット番号と市区町村コードを持っていることが前提となります。それと生年月日とで本人を特定しているということのようです。
ところが、架空の番号や出鱈目な生年月日を入力しても予約ができてしまうということが大手メディアの記者が実際に試してみて判明し、それが報道されて騒ぎになったということです。

この報道をめぐっては、この不具合自体を過大評価している人と過小評価している人に分かれている気がしていて、あとは不具合を調べるという行為が法律的に、あるいは倫理的にアリなのかナシなのかという議論で炎上していますが、報道の是非についてはこのブログで取り扱う論点ではないので割愛します。ここでは、ベターな解(ソリューション)は無いものかという視点で考察したいと思います。


※ この記事は、先日公開した以下の音声コンテンツを基に編集したものです。


仕様の不備ということについては、開発期間が短かったので割り切ったのだろうということは容易に想像できます。総理大臣から防衛大臣に指示が有ったのが4月27日だそうですから、ゴールデンウィークを除くと2週間程度の開発期間しかありません。もしかしたら連休返上で開発したのかもしれませんが、それでも3週間です。
開発期間が短かったわけですから、不具合を潰し切れないというリスクが当然あるわけですよね。実際潰し切れなかったわけですから。

報道を見る限りでは、正常系のロジックだけを実装し、正常系のテストしか実施していないのではないかと感じました。「性善説で設計した」のような趣旨のことも言われていますが、少なくともチケットを受け取った人が、チケットに書いてある通りのデータを入力して、本人の生年月日を正しく入力できさえすれば、正しく予約が行えるのです。だからその機能に特化したということなのではないかと推測しました。

ただしその時、入力を間違えてしまうケースとか、チケットを受け取っていない人がアクセスするというケースは想定から除外したんだと思います。もちろん想定から外したところで、そうしたケースが発生しないわけではありません。だからこういうことになったということではあるのですが、与えられた開発期間の割には自動で予約を取るという機能に拘っているように見えて、もうちょっとやり方はあったんじゃないかなと思います。

ここからは私見です。

開発期間が短い中で完璧を期すことは難しいと判断したのであれば、オンラインで自動で予約が取れるというところは諦めても良かったのではないかなと思いました。
例えば、Google Formsのようなサービスを使って、今回で言えば、チケットに記載されている情報と個人情報、それからメールアドレスと希望する日時くらいあれば足りるでしょうか。そうやって必要なデータ項目を特定したら、それらを入力できるフォームを作って公開し、とりあえず申込だけはさせてしまおうと。
申込データは1日で何万件も溜まるでしょうから、例えば1日1時間だけ計画停止して、データを吸い上げたら申込サイトを再びオープンするという運用にすればよいと思います。もちろん、何重にもバックアップした上で都度クラウドから削除するという作業も必要になると思いますが、いずれも難しいことは何もありません。

一方、吸い上げたデータは、申込サイトを再オープンしてからでも、落ち着いてデータベースに投入して、まずはタイムスタンプの順番に申込番号を振ってしまいます。
そして、マスターと正しく照合できたものは予約番号を振り、別途メール配信サービスを使って申込者に予約完了メールを送信すれば良いと思います。
そして、照合できなかったものは、「照合できなかったのでもう一度申し込んでください」という案内のメールを流せば、「あ、自分は予約出来なかったんだな」ということでもう一度申し込むでしょう。早い者勝ちだとは言え、接種の手段は他にもあるわけですから、大規模会場に拘る必要はないかと思います。また、申込できたか心配になって何回も申し込む人はいるかもしれませんが、既に予約が取れていれば、その申込データについては完全スルーで実害はないと思います。

上述した仕様のポイントは、一般利用者に晒されるのが既製品のクラウドサービスだけだという点です。Google Formsであれば1時間もあれば入力フォームは完成できてしまいますし、メール配信サービスも契約さえできれば、テンプレートを考えてデータを流し込むだけです。
後は予約を取る機能については、データベースを使えば(人力にはなりますが)エンジニア数人で作業できると思います。少なくとも予約の業務は一般利用者に晒されていないわけですから、不具合があっても修正しながらやり直すことができます。ところがオンラインで完結してしまうと、不具合があるとやり直しがきかないですよね。

SNSなどネット上の意見を見ると、「基本的なチェックくらいすべきだ」といった声が多く見受けられましたが、このシステムは未来永劫運用し続けるようなものではないのですし、全自動に拘ったシステム開発をしないで、既存のサービスを組み合わせて、防衛省内部の人間(CIO補佐官を採用しても良いと思いますが)だけで回した方が良かったのではないかなと思いました。



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