「集合知とは何か」西垣通 著

前回採り上げた「2045年問題」とはある意味対極を成す著作です。「2045年問題」はかなり著者の趣味であるSFの色が濃く、コンピュータが知能を持つという話題を提供していましたが、「集合知とは何か」ではその話題を真っ向から否定しています。こちらの著者の西垣氏は本当にコンピュータを専門に研究しておられる方なので、SF的な読み物よりも現実的かつ学問的な内容となっています。

突き詰めていくと「コンピュータとはそもそも何なのか」という起源に遡るのですが、それ自体は本書の論点ではありません。ただ、コンピュータがある情報を入力として、人間の代わりに正確に思考をしてくれる装置として作られたものであり、その一つの形がAI(人工知能)なのだそうです。その背景として「事物を記号であらわし、記号を形式的なルールにもとづいて論理操作することにより、事物についての正確な知がえられる」という論理主義的・形式主義的思想があります。

コンピュータが人間の代わりに問題解決を行う未来、例えば病院に行ったら医師が全く居らずコンピュータが全ての診察と処置を行うような世界、あるいは、裁判所に行ったら弁護士も裁判官も全てコンピュータで、そのコンピュータが即座に判決を下すような世界を想像してみてください。昔の人はコンピュータに専門知識を全て記憶させておけばそういったことが可能であると考えたようですが、実際はそうはなっていません。それはなぜでしょうか。

冒頭に記したように、西垣氏は人間とコンピュータは全く異なる存在であり、コンピュータが知能を持つことは有り得ないとしています。というのも人間が得意なのは「刻々と変化する環境の下で、常識と直観を働かせ、臨機応変に働くことだから」で、これはAIを含めコンピュータがあまり得意ではありません。なのでコンピュータに問題解決を丸投げするのではなく、あくまでも意思決定は人間が行う前提で、その材料となる情報を提供するというのが現在の潮流なのだそうです。

さて、主題に戻りますが、これらを踏まえ、私たちがこれから将来コンピュータやコンピュータを利用した情報社会に何を期待できるのか、あるいは何を期待すべきでないのかということが後半で述べられています。

私たちは兎角「フラットで透明な」社会や組織を望ましいもののように考えがちですが、あるモデルによるシミュレーションの結果によるとそれは却って不安定な社会を招くことになり、逆にある程度の閉鎖性や不透明性がある方が望ましいリーダが生まれ健全な社会が形成されるとしています。

すると望ましい集合知を作るためのカギはコミュニケーションの在り方にあるようです。つまり、何でもかんでもすぐに多数決を取るのではなく、泥臭い対話を重ねて合意形成する方がより良い解決に到達しやすいようです。ソーシャルと言われるネット上のインフラが発達し、そこで形成される意見が多数決で正しい意見のように思われがちですが、必ずしもそれがベストの解ではないということなのですね。


書名:集合知とは何か
副題:ネット時代の知のゆくえ
著者:西垣通
発行:中央公論新社/2013年2月25日
ISBN:978-4-12-102203-5


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